Final DX6000 試聴超短評
最近は仕事が忙しくなってしまったおかげで、ヘッドホン界隈の新しい話題は、ミーハーなくせにキャッチアップでやっとです。そんな中、発売時にいろいろな意味で話題になった。Final DX6000を試聴させていただく機会にやっと恵まれました。話題に乗るという意味ではやはり旬を逃しましたが()、その分、冷静に聴くことができたような気もします。ですので、ちゃんとブログ記事にしておいてもいいのかなーと思い、筆を執っています。
試聴は今回もフジヤエービックさんのBoulder 812、バランス接続で行いました。
全体的には、光る部分はありつつも問題点が大きく、総合的に見ると巷の評価に近いところに落ち着くのかなー、といった印象でした。まず、非常に大きい問題点がいくつかあります。
一番気になった部分は、音像の収束感の少なさです。よくよく聴いてみると、音像が微妙に二枚の重ならない何かになっているように聞こえてきます。おそらく音像を出したい位置に左右で正しく出せていないのかなー、と推測しています。(ステレオフォニック的に正しい表現かは怪しいですが、そんなイメージです。)Boulderが暖まってくると改善を少しずつ感じましたが、このヘッドホンが本質的に持っている問題の一つだと思われます。
それから、背景となる部分の音が無音、あるいはそれに限りなく近い音にならない点も気になります。無音からある一定のオフセットを持っていて、可聴音量に入ってしまって常に何かが聞こえているように感じます。これが独特の圧迫感というか、籠もり感につながっていそうです。このこともあり、先ほど指摘した点と併せて、全体的になんとなくぼやっとした、定まりきらない感じも作り出しています。音が鳴っている空間の広さは感じがあるものの、個人的には、音場をあれこれ語る以前の話だなーと思いました。
また、ほかの音域に比べて低い音だけ、情報の見え方が急に変わって見えなくなってしまいます。確かに量感は多めですが、それ以上に、質感など、ほかの帯域にはある音像内情報の捌きが急に無くなり、低域だけ輪をかけてぶわーっと聞こえてきます。
その他、どの音も丸めすぎているなど気になる点はありつつも、とりあえずこの3点が大きな課題であると思いました。
ほぼ完全に妄想なのですが、特に最初の点は、時間がなかったのかなーとか、そういう類いの調整不足に感じました。一瞬、個体差としての左右ドライバのミスマッチが頭によぎったのですが、先に他店舗で試聴していた仲間が同じようなことを指摘していて、「うーん……」となってしまいました。
総合的な視点でこれらの課題を覆すことは難しいとはいえ、情報量の器の深さは一つ良かった点だと思います。低域以外にはなりますが、水準は最近の同価格帯ヘッドホンレベル〜やや上、といった印象を受けました。特に音像の中の描写は、前述したピントの合わなさというハンデを抱えつつも、比較的聞き取りやすいです。Finalのヘッドホンは今までいくつか聴いてみてますが、こういう点での素直さを感じたことはなかったので、少々驚きました。
例えば、最近のD8000 DCを聴いたときには、背景の無音に近い部分を切り上げたり、必要以上に音を間延びさせたりなどなど、「音で場を埋めようとしている」印象を受けていました。おそらくUtopia SGの情報量処理能力を意識しているのだろうことはわかるのですが、情報量に対する認識に両者の間で根本的な差が存在するように感じざるを得ませんでした。そのため、今回のDX6000で素直に情報を出しているのを聴いて、いいなーと思った反面、ちょっともったいないとも感じた次第です。
最近のFinalはなにかと動きが多いようですが、このヘッドホンが「詰めきれなかった」のか「この音を狙っていった」のか、どちらなのかによっては、今後の期待感も変わってくるような気がしています。基本的なところをまとめきれて初めてメーカーらしさを表現できる土台ができると思うので、まずは今回感じたメリットを伸ばし全体を整える方向に向いてくれると、個人的にはうれしいです。そんな意味でも、また貴重な日本企業という意味でも、応援(という名のウォッチ)は続けていきたいと考えています。