2024-05-06
最近日本に入ってきたらしいヘッドホンアンプ、RivieraのAIC10-BALを聴いてみました。300万円台後半といういわゆるハイエンドに属するヘッドホンアンプで、Twitterでも若干話題になっていましたね。
個体はお茶の水のオーディオユニオンさんに期間限定で展示されていたもので、今回の視聴は、そこにあるシステムになります。具体的には、MSB Premier DD + Discrete DAC (Plusではない) + Roonです。ヘッドホンは、Utopia SGを使いました。オーディオユニオンさんのヘッドホンコーナーは今回が初めてだったので、お店のシステム自体への理解がまだ浅い部分はありますが、ご了承いただければと思います。
ざっくり言えば、音の鋭さをあまり出さないようにまるーく、上品に整理しまとめたような音だと思いました。詳しい方に聞いたところ、この傾向はハイエンドの真空管アンプによくある傾向で、海外ではよく好まれるそうです。個人的に海外の方の嗜好と日本人の嗜好(やや雑な括りですが)は結構違うんじゃないかと思っていて、海外の情報を収集するときは少し注意しながら見る必要があるな、と考えていたので、今回のような機会は非常に貴重でした。
具体的な話をしますと、音の鋭さや、音楽の緩急がやや丸みを帯びた、なだらかになるイメージです。もたつきや硬直感というわけですし、マクロ的にみてダイナミクスが圧縮されているようにはそこまで感じないのですが、特にリズム感は穏やかに、ややゆったり流れるような感じになります。鋭さに関しては、高域を丸める短所があるUtopia SGだと、例えばピアノの硬さや各楽器のアタック感で、若干特徴が出過ぎてしまうきらいはありました。
ただし、音の品位は高く、音楽としてのまとまりは維持しているように思いました。また、そういう特徴を持ちつつもベースにはそれぞれの音源らしい雰囲気感も(若干Premier DDっぽい感じはありますが)多少感じられるので、そこはすごいなあと思いました。そういう意味では、最近聴かせていただいたBoulder 812とはまた違ったまとまりの良さがあるなあと思いました(記事にしていない……)。
また、この価格帯なので、音色や質感の連続性はもちろんきちんと表現されているように思います。音色は少し明るめですが寒暖はニュートラルです。また、質感は若干描写が荒くぶつぶつしたような肌理が見えるような部分もありつつも、硬直感はなくある程度のしなやかさを感じます。
出せる情報量的にはPremier HPAより劣る程度かな、といった感じで、DDのドーピングがある状況にしては密度感などがグッと出てくるようなイメージはありませんでした。特に、音の広がり感は情報として多少整理されて、そもそもそこまで出てきていないような印象で、ここは明確にやや不足かなと思います。なので、情報量を処理するためにUtopia SGが必要かと言われると、ちょっと疑問符がつきそうです。ただ、必要なダイナミクスや各要素の階調性は再現できていそうです。少なくとも、それらに抜けがあるようにはあまり感じませんでした。
不足点というか欠点というと、あとは、音の質量感がやや軽い点と、(特に音像の周りで思ったのですが)ややノイズというか雑味が多いように感じました。前者は、音楽としてのまとまりを重大に阻害するほどではないですが、なだらかなイメージとはあまり合わないなあと思いました。後者は、真空管アンプだけあってS/Nが低いのかもしれませんが、その辺りは私は良くわからず……アンプを少し暖気させたらあまり気にならなくなってきたのは覚えています。
その他、帯域バランスはもう少し低域の量があってもいいかな、という感じで、駆動力は問題なし、音場内の定位などはDDのドーピングもあってなんとなく前方にレイヤ感を伴って三角に安定的に定位している、と言った感じです。
総合的に見ると、音楽の一つのまとめ方として上品かつ穏やかでいいなあとは思うのですが、値段がMSB Dynamic HPAより高く、Premier HPA以上を選ぶ人からすると情報量的な不満が出てきそうなので、立ち位置にちょっと困りそうなアンプでした。もう少し安ければ味変として使うのはアリかなあ、と思うんですが……。ただ、味変として成り立ち得る基礎性能のレベルはある程度確保されていると思います。「音の要素に瑕疵があるのと味変って何が違うねん」というのが気になる方は、聴いてみても良いかもしれません。
と、いうわけで、久しぶりに高額な製品のインプレッションを書いてみましたが、いかがでしたでしょうか。GW中に一つは記事を書けてよかった……。引き続きゆるく頑張っていきますので、皆様何卒よしなに。