pontaのヘッドホンブログ

SMSL D400EX短評@ヘッドホンシステム

2022-12-11

ご縁に恵まれまして、スピーカーオーディオをやっていらっしゃる kanata さんから SMSL という中華メーカーの DAC、D400EX をお借りしました。ということで、既に氏や他の方から詳細なレビューが出回っていますが、似たことを書くことになることを承知で、私のヘッドホン環境で聴いた観点からも少し記録しておこうと思います。

kanata さんには貴重な機会をいただきましたことを御礼申し上げます。ありがとうございます。

この DAC は、旭化成の最新世代のチップである AK4499EX + AK4191 を搭載しており、これに対して、スイッチング電源をあてがっているというのが基本構造のようです。私は回路的実装についてあまり詳しくないのですが、音としては、実装の簡素さとこれらの解釈で大体賄えるようなイメージでした。

ちなみに DAC 周りの設定は、氏のおすすめであるデフォルト設定です。私はデフォルトが一番よくあってほしい派、複数の設定を提供するより一つの設定を作り込んでほしい派の人間なので、デフォルトが一番良いというのは好感が持てます。

話を戻しまして、どういうことかというと、おそらく電源関係と思われるノイズや実装の簡素さに影響を受けつつも、チップ自体のポテンシャルが高いおかげで割と良い音楽体験ができる、ということです。ミドルクラス程度なら全然これでいい気がしています。ヘッドホン界隈で人気の ADI-2 シリーズからのアップグレードにもオススメです。

欠点としては、私が感じるところでは高音周りのノイズ感が多く、質感などがイマイチな場合があることが挙げられるかと思います。また、実装の簡素さなのか若干ヌルかったり、音にやや余裕がなくペラいところも見受けられます。特にちょっとペラいと耳にツンとくるもあるので、そこのあたりはちょっと残念ではあります。

おもしろいのは、これで転ばないところです。

先ほど質感がイマイチなことがある、と言いましたが、全体的には、現在の同価格帯機種よりは遥かにマシに出ているはずです。個人的にはまだよくわからない・違和感がある場合もあるとは思いつつも、必要なザラザラ感を出そうとする気概は感じますし、特に金属感、弦の感じに通ずる「それっぽさ」に影響する倍音も、グラデーションを伴ってよく出ていると思います。この辺りは、チップの素性が良いからかなあ、と想像します。

一番びっくりしたのは、音場の表現です。これは音場定位を把握するのが苦手な私でも、前後にレイヤーを伴ってきちんと並んでいて、わりと安定しているのがわかります。これはチップのなせる技だと思いますが、D400EX でも十分に出ています。こういう作りがきちんとした音源と、こういうのが得意な LCD-5 と合わせると、ちょっとびっくりするような表現を得られました。これは本当にすごくて、同価格帯機種を遠く彼方に引き離しています。

これら含めて、捌ける情報量も多いのが特長だと思います。細かい音自体やニュアンスの変化も割と拾ってくれて、満足度が大きいです。この辺りは LCD-5 でもなかなかですが、(想像ですが)例えば Utopia SG なら、結構良い線いくんじゃないでしょうか。

ちなみに、音色は若干明るめ傾向ではありつつも、全体的によく出ていると思います。この辺りもあまりよくわかりませんが、チップのポテンシャルなのでしょう。音色は Utopia SG だと元々のやや明るく若干華やかな性質もあって、若干くすむ LCD-5 の方がもしかしたらバランスが取れるかもしれません。ただ、LCD-5 は「偏る」ので、様々な音色に移ろう表現では依然として Utopia SG がいいのかも(聴けばよかった)。

全体としては、音の正当性?という点では、チップのおかげで現在の同価格帯機種とは比較にならないほど良いのではと思っています。ヘッドホンファンは、スピーカーに比べると価格レンジ感を全体的に下に思っている方も多いと思いますが(私もそうです)、結構背伸びした気分になれます。

もっと背伸びしたい方は、ヘッドホンのレンジ間でのハイエンドではなく、スピーカーのレンジ感のハイエンドにいくことになりそうです。個人的にはヘッドホン界で有名な Chord DAVE や、dcs Bartok DAC といった値段が高い DAC より、全体的な音の正当性という点で D400EX の方が好きです。(なお、MSB Discrete DAC Plus に関しては、この観点でいくと、D400EX は流石にいろいろ敵わないのではと思います。)

この辺りの機種が気になっていたのであれば、D400EX または物量型中華でも十分に満足がいくかもしれません。よく Gustard A26 は話題に出ますよね。あれは私も聴いてみたいですし、よかったら普通にほしいです。D400EX の欠点を改善し、よい方向性に行っている可能性は低くないと思っています。そうなると、DAC は一時期価格レンジが 2 極化するかもしれませんね。

こんな感じでどうでしょうか。私としては先人の記事を剽窃したようなこの記事を出すことにかなり抵抗感があったのですが(死)、私「も」そう思うことは確かですし、そこに価値を見出してくださる方がいると信じて、この世に送り出すことにします……。

2023.6.2 追記 現在は、お譲りいただきメインシステムの一部になっています。