2024-01-21
STAXの最新フラッグシップセットを聴かせていただきました。この組み合わせはいくつかの上流で聴いたことがあったのですが、どれもそれほどしっかりしたものではなかったので、いつも特徴を掴みきれずに終わってしまっていました。今回はフジヤさんのMSB Discrete DAC Plusで聴くことができたので、ある程度こんな感じかなあ、というのが分かってきたので記録しようと思い立ちました。
なお今回は、SR-X9000というヘッドホン単体というよりか、SRM-T8000との組み合わせのインプレッションといった傾向が強いかもしれませんので、そこを差し引いていただけると助かります。というのも、ヘッドホン単体のポテンシャルが非常に高く感じられる一方で、ここまでのポテンシャルを持ったヘッドホンにしてはこんな特徴があるのはどうなんだ?という疑問も微妙にあり、切り分けが不十分だからです。
結論から言うと、完璧ではないにしろ、今まで聴いたハイエンドヘッドホンの中で一番、音質向上の可能性が感じられる製品だと思いました。それだけ基礎的な部分で瑕疵が少なく、レベルが高いです。以降、T8000を外部ボリュームで聴いた時の感想になります。
すぐ気づく問題点を先に言えば、まず音の質量感が軽いです。どんな音楽を聴いても、すべての音がプカプカと浮いているような印象があります。これが良いように作用する楽曲もありますが、やはり最初は違和感が出るかなあ、と思います。例えば、有名なJames BlakeのLimit To Your Loveは聴けはしますが、低域に重厚感がなくなり、なかなか厳しいところもあるなと思ったりします。
また、後述しますが想像する全体スペックからすると、情報の密度感があまり出ていないような気がします。荒いと感じるほどではないのですが、DACのクロックがイマイチなのかなと思うような感じの音です。ここはDiscrete DAC Plus自体の性能やT8000が絞ってしまっているだとか、その他セッティングの問題もある気がするので、うまく補ったりスペックを発揮できる環境があれば、素晴らしく伸びるのではないかと考えています。
このヘッドホンの素晴らしいところは、なんといっても音場の見通しの良さです。音像の立ち方、位置、音場の空気感などなど、とにかく全体像が見渡しやすいです。これは私の経験上、どのヘッドホンでもあまり聴いたことがないだと感じています。そう言う意味での性能も高いと感じています。
また、音色は基本非常にニュートラルなのですが、ここが音源によって(質感も伴って)自在に鳴るのが素晴らしいです。フジヤさんの環境でここまで音源、上流への追随性が高い音を聞いたのは初めてかもしれないです。曲によって自分を取り巻く雰囲気がガラッと変わる感覚を、(フジヤさんでは)久しぶりに味わいました。この素性のよさはまさに他のヘッドホンでは聴いたことがないかもしれず、そう言う意味でのポテンシャルは非常に高い気がしています。
その他も、たとえば音の押し引きの速さも非常に速いですし、普段気になる音の項目はほとんど問題なく感じています。
SRM-T8000に限ると、いろいろ問題をありそうです。
まず、内臓ボリュームですが、これは良くなかったです。正直外部ボリュームが必須かと思います。内臓ボリュームにするといきなり音場の冴えがなくなり、あのめちゃくちゃ良かった見通しが一気に悪くなります。音色も自在性を失い一方向に偏るレベルの低い音になり、細かい質感やニュアンスも落ちます。音像の立ち方も安定感が微妙になります。ただ、質量感や密度感が微妙に補完されますが、X9000が本来出せそうな自在感、柔軟性などを持った、レベルの高いものにはならないです。
また、これは外部ボリュームで感じた「おそらくT8000なのかな」というところですが、音の響きが中域を中心にややリッチになる傾向があるかな、と思いました。また、例えばカンターテドミノの合唱のフレーズはじまりで、高域がやや柔らかく当たってくるように感じられ、もう少し鋭さがあっても良いのかな、と感じることがありました。おそらくもう少し詳しく聴き進めると何点かは出てくるかな、と思ったりしています。
こういう問題もあるので、ぜひSTAX以外のアンプで聴いてみたいところですが、故障率が上がり無保証になるとのことで、店頭試聴は絶望的でしょう。となると、自分で買って確かめるしかなくなるので、グッとハードルが高くなりそう。残念。試行錯誤のコストが高すぎるので、ハイエンダーなら一気にMSB Electrostatic HPAに行ってしまっても良いかもしれないなあ、と思ったりもしました。
ということで、久しぶりにテンションの上がる試聴になり、楽しかったです。正直結構欲しいかもなのですが、V550 Proもあるので、悩ましいです。