2023-03-23
フラッグシップ級のハイエンドヘッドホンは去年ごろ一気に更新が入り、そろそろ把握するのも落ち着いてきたかなあと思ったので、最近は、もう少し価格の安いものや少し古めのモデルについて掘り進めています。その中で、いまだに根強い人気を誇るゼンハイザーの HD800S は、今聴くとどうなんだろうと気になったので、いつものフジヤさんで聴かせていただきました。
この機種というと、昔友人がこの機種を買っているのを見たミーハーな私は、それにモロに影響を受けてハイエンドヘッドホンにのめり込み、(当時)最終的に Focal Utopia を買うまで満足しなかった、という金銭的に辛い思い出が蘇ります。その友人は、私をヘッドホン沼に落としたものの、自身はエンジョイ勢でそこまでハマらなかったということで、私は半分恨んでいるんですが……(冗談です)
そんな思い出があるこの機種ですが、いつもの MSB ワクワクセット(MSB Discrete DAC Plus + MSB Premier Headphone Amplifier)で視聴させていただいたところ、やはり時代を感じるなあ というのが率直な感想でした。
買った当人にその話をしたところ、「設計もそうだけど、発売も結構前だしな」とあっさり言われて、まあそうだよなあ……と一人で感慨に耽ってしまいました。
私が特に時代を感じたのは、情報量の捌きの部分です。基本的には価格なりの性能はあるかなあと思ったのですが、ワクワクセット(特に HPA)があったまってくることによる情報の密度増加や、マイクロダイナミクスの表現向上にほとんどついていけません。ドライバが少し駆動力や情報量に負けている気すらします。次の世代や最近の機種、例えば Focal Utopia 初代や前回試聴した MM-500 やなんかは、まだ追従してくれるのですが……。これはおそらく設計において、当時出せる情報量の想定を上回ったのだと思います。
その他、やはり音の要素に対する穴の多さもあります。
まず、量感的に低域が少し足りないにも関わらず高域が素直に伸びず、神経質に突っ張る帯域があるように感じます。そのためピアノの硬さが出てなかったり、ドラムにおいてシンバルなどの鋭いアタック感に違和感を感じたり、そこだけ音色がおかしかったりします。また、音が少しペラいのも手伝って、ズスケなどのバイオリンもバイオリンになりませんでした。なお、基本的に音色は少し暗めで自在感はなく、温度感としてはやや冷た目と感じました。
次に、全体的に音がややドライ傾向で、少しガサつくような感覚があります(これは高域の伸びなどの影響もありそう)。特に音像の周りの描写で妙なザリザリ感があり、一瞬質感なのかと思うのですが、よく聴くまでもなく質感としては基本的に曖昧です。また、その影響で音の押し引きがきちんとしているような気分に一瞬なりますが、実際には音は全体的に速くないです。
その他、音場空間の形?が目のめりな覗き込むような形になっていて定位が狂ったり(これは今のヘッドホンでもままありますが)、空気感があまり出なかったり、質量感が少し軽いように思ったり、というのもありますが、基本的に上記三点が気になるかなあという感じです。
この機種が最前線だった頃のことはもうあまり覚えていませんでしたが、昔はもしかしたら皆、音質的にこれで十分だったのかもしれません。その当時あったコンポーネントの能力もあったかもしれません。しかし、今、ヘッドホン自体の基礎的な性能が上がって、よりきちんと音楽を表現できるようになってきたと思っています(値段も上がりましたが……)。ユーザーたる私たちも、過去の歩みに感謝しつつ進化をしっかり感じ取れるように、自分の聞き耳を広げていきたいですね。それが音楽をより楽しむための近道だと思っています。私も頑張らなきゃ。
そんなこんなで、なんとなくヘッドホン最前線の順調な進化を感じられる試聴となりました。あとは、今の最前線が下の方のモデルにその音質が浸透していってほしいですね。これも時間のかかることでしょうから、ゆっくり眺めていきたいと思っています。