2023-05-22
final の新ヘッドホン、X8000 が、今年のミュンヘンハイエンドなんちゃらで発表になりましたね。価格が 70 万円付近になるとのことで、どんな音になるのか楽しみです。
そこで今回は、X8000 への期待を込めて D8000 を振り返ってみる、ということで、このヘッドホンをきちんと試聴してみました。実はこの機種、私はあまりちゃんと聴く機会を設けておらず人の話にあまりついていけなかったので、これで晴れて仲間入りとなります。やったぜ。
環境はフジヤエービックさんのいつもの MSB ワクワクセット + XLR4 シルバーコートケーブルですが、電源が PS Audio のものから TASCAM の安いものに変更になったようです。そのため、前回までとは条件が異なりますし、私自身この電源で聴くのがまだ慣れていないので、その辺りはさっぴいていただけると助かります。
まず気になるのは、(特にマイクロ領域の)ダイナミクスが硬直気味で一辺倒に感じることです。例えば、音色の動きが鈍く、一つのポイントに偏るようなイメージがあります。ニュアンスや複雑性も、微細方向が出てこず、また、動きにくい印象です。そのため全体的に表面的で、何を聴いていてももどかしい思いをします。
上記と若干関連する内容として、倍音があまり出ておらず、各音のベースになるような部分しか出ていないように聞こえます。例えば、フルートの息を吹いている感じがあまり出てこず、変に感じました。これがさらに前述の表面的な感じを強めています。
また、ヘッドホンの基礎性能として重要な情報量の捌きですが、もともとマイクロ領域をバッサリ行っていることもあり、MSB HPA が温まってくることによるマイクロ領域の変化はあまり感じ取れません(感じ取れないことはないですが)。また、密度感としても微妙な感じです。ただ、D8000 より前の世代だとここが全くついてこれない機種もあるので、そういう意味では多少の進化を感じます。
普段あまり気にしていないところで、音数の少なさも気になりました。上坂すみれのポプテピピックや THE OLIVIA PROJECT の HAVE YOU NEVER BEEN MELLOW(オリビア・ニュートン・ジョンのダンスカバー)を聴いてみたのですが、電子音の数が明らかに少なく、寂しいです。音数の多い音楽ゲーム系の音楽は、やや劣勢になるかもしれません。
ただ、帯域バランスとして決定的にどこかが出ない、という訳ではなさそうで、ダイナミクスの出方も微小部分をガッと削る、という感じなので、ある意味分かりやすくなっているのかもしれません。聴き馴染みは良くまとまっていると思います。(まあ、金管楽器系以外ではなんとなく膜のようなものも感じられたので、微妙かもしれません。)
その他、音は値段なりに速さを出せており、音場定位に関しては、特に感想はありません。
というように、全体としては、分かりやすくまとまってはいるものの、基本性能自体が一歩劣る感想でした。同じ時期に戦ったであろう Utopia 初代や SUSVARA などと比べても、やはり一段落ちるかなあといったイメージです。ただ、機材レベルがマッチングしていればバランスをひとまずあまり欠かないで聴けるので、このヘッドホンのわかりやすさと相まっていいのかな、と思ったりしました。
最近の出来がいいハイエンドは、多くは不十分ではあるものの、これらの抜けている部分がより少なくなり、情報量もより多くを扱えるようになってきているため、よりよい上流へ追従できていくと思います。X8000 には、こういった基本性能の部分での大幅な向上をまずは期待したいと思います。