2023-12-24
久しぶりの試聴インプレになりました。この間にも書こうかなと思っていたヘッドホンはいくつかあったのですが、私生活が忙しくあまり書く気にならず……。とはいえ、そろそろいい加減書かないとこのブログの存在意義が問われるので()、重い腰をあげて筆を取っている次第です。この機種自体は、発売前から聴けるのを結構楽しみにしていたので、真面目に聴くこと自体は楽しかったです。
試聴環境は、いつものフジヤエービックさんのMSBセットを使用させていただきました。また、接続は純正のバランスケーブルです。
総合的には、40万円というトップエンド帯から一歩引いている値段設定の意図が、なんとなくわかるヘッドホンでした。言い換えれば、あらゆる音質項目の品質がトップエンド帯から一、二歩引いた形で、バランスよく配分されているようなイメージでしょうか。音の基本的な感じとしては素通し志向(私の好みの傾向ではあります)で瑕疵を隠すようなこともしないので、それだけに基礎性能の高い機材に繋ぐと、音の要素の間引き感も感じます。ただ、皆が感じる「あ〜この楽器ってこんな感じだったよなあ」という部分はある程度バランスよくおさえているかな、とか思いながら聴いていました。
一番気になる点は、楽器を吹く系の音の時やヴォーカルの破擦音の時などで出やすいのですが、高域を中心に質感が必要以上にジャリついていて、耳障りなことです。拾ってはいけないような高域のノイズっぽい部分を拾ってしまっているような気がします。例えば、聴衆の拍手なんかも聴くと潰れたように聴こえます。この点は、下のモデルのHi-X65にも似たような傾向を感じたので、そういう意味での「解像感」を出すためか、メーカーとして意図的に持ち上げている可能性もありそうですね。モニター用途も視野に入れているのかな……。少なくともこの価格帯のリスニングヘッドホンではあまりない話だと思いますし、適さないかなと感じています。
その一方で、実際に処理できそうな情報量としては、一世代前とそこまで変わりはないかな、感じました。基本的にある閾値より細かいところの情報は出ておらず、出ている部分の情報もやや間引かれ、かつ、なんとなく奥まって出ているイメージです。そのため、嫌味にはなりませんが、全体の表現として表情が固く、階調性や自在性に欠けます。また、音像周りの情報や、MSBがあったまってくることによる情報密度の変化もほとんど感じ取れませんでした。
ただ、情報量の出方の全体的な傾向として「なんかこの楽器ってまあこういう感じだよね」っていう表面の部分は抑えられているように思えたので、間引き方は悪くないと感じています。このなんとなく「この楽器ってまあこんな感じかなあ」というところが抑えられているのが、このヘッドホン全体のイメージにも通じます。音色はニュートラル基調のちょっと明るめな寒色系で、帯域バランスもX65比で低域の量感が増え改善、質感もサラサラ系スムースな感じで割と王道(?)、空気感もそこそこに出るし、音場としても顔面全体の前に広がる感じでやや縦に広い音場で位置関係もまあ普通ですし、その辺り、個人的になんとなくまあこんなもんかなあと思ったりもします。もちろんその他、厚みの薄さや倍音周り、変な音の硬さやアタックの隈取り感など、ちょくちょく気になる小さい穴もあるのですが、全体的に製品としてのバランスはある程度取れているのかな、と考えます。
こう並べていくと、個人的な希望としてですが、せっかくLCD-5やStealth、そして特にUtopia SGといった優秀な機種が出てきているので、もう一歩踏み込んで欲しかったな、なんて思ったりもします。例えば、音色の自在感や階調性やニュートラル感、表現の自在性や柔軟性、階調性、音像の精密感や立ち方、空間情報とか……、そういう話をするレベルには達していないです。現状のトップエンドは、少なくともこれらのクオリティの一部は議論できると思っています。
値段としては現行のトップエンド帯からは一歩引いたところなので、まあ、うーん、というところですが、挙げたように他にも良いヘッドホンはあるので、そういう機種を見習って進化を見せてほしかったな、という思いは正直あります。
私のメイン機種探しもそろそろ決着をつけたいので、真面目に考えないとな……。